設立主旨
専門職としての知識や技能の向上は,現場での実践を重ねることによって養われます。これは実地修練(on-the-job training; OJT)と呼ばれ,どのような職種であれ適用される原則であると考えます。
しかし,診療の対象となる疾病は多様で,一人の医療者が同一症例を経験することは決して多いとは言えず,OJTには限界があります。
一方,医師をはじめとする医療関係職種の行う処置などの医療(関連)行為の習得は,現場で先輩や教官の指導のもとで行われています。しかし,昨今の社会現象として,医療に対する不信,個人の権利意識による医療者への協力姿勢の欠如,一方ではモンスターペイシェントなどによる医療者側の及び腰もあり,OJTが困難を極めている状況にあります。
こうした背景もあり,近年の医療界ではOJTを補完する教育手段として,職場を離れて行われるoff-the-job trainingが重要な役割を担ってきています。これには研修会や講習会などの座学,症例を通して判断力を養うケーススタディ,役割を演じながら問題解決を図るロールプレイング,モデルを用いるシミュレーション教育などがあります。これらをバランス良く取り入れた学習方法がoff-the-job trainingとして効果的であるといわれ,最近では,これらの要素を兼ね備えた教育法が普及しています。
日頃経験することが少ない症例,高度な処置や重要な意思決定が求められる症例の修練のためには,臨床現場をそのまま再現したような環境を揃え,実物の器機を設置し,実例にそったシナリオで判断力や技能の習得を図る方法の有用性は疑うべくもありません。とはいえ,その一方でoff-the-job trainingが行われれば充分とし,OJTが軽視されがちな風潮に警鐘を鳴らす教育者らもいます。
こうした現状を踏まえ,われわれは,指導者用教育ツールを含めた教育ツールの研究,開発,普及,指導者の育成と派遣等を目的に一般社団法人臨床教育開発推進機構の設立を決意いたしました。また,off-the-job trainingに必要不可欠と考えるSP(シミュレーテド・ペイシェント)の教育・育成・派遣,さらには,同時に,一般の方々にも医療教育への理解を求めていく必要性をも認識し,映画,TVドラマ等のシナリオのチェック,役者への演技指導含む医学監修や適任人材の派遣なども事業内容としております。
繰り返しになりますが,OJTの重要性を強く認識しつつ,off-the-job trainingの有効・適切な運用のために必要な活動を進めるつもりです。皆様のご協力とご支援を賜り,よりよい臨床教育を提供し,国民の健康と福祉に寄与する人材の育成に役立ちたいと考えます。